会社の駐車場に着くと、さっき降り出した雨が激しさを増した。

傘をさそうか、そのまま走って行こうか。

やっぱり傘をさそうと車から傘を取り出し歩き始めた目の前に

ずぶ濡れで、傘もささずに歩いている女子中学生。

日吉中学からすぐ近くなので、正門を出た時には雨が降ってなかったのだろう。

「この傘を使いなさい」

「いいえ、かまいません」

「そんなこと言わずに、使いなさい。俺はすぐそこだから」

「ありがとうございます」

彼女は笑顔で傘を受け取ってくれた。

制服は当時のままだ。

ただ違うのは、スカーフの色がグリーンからブルーになっているところだ。

数年前に、日吉中と美須賀中が統合した時に、制服は日吉中、スカーフの色は美須賀中

に決まったそうだ。

少し先に走って、会社の前で彼女を待って、

「この傘立てに返してくれたらいいから。俺も日吉中だから」

「ありがとうございます」

雨上がりの朝、傘立てを見るとメモが巻かれた傘が。

メモを見ると

「わざわざ」という文字。

「わざわざ」には、「本来ならしなくてもいいことをする」と辞書に書いてた。

鍵山秀三郎さんの日めくりにも。

わざわざか。お仕事頑張ろう。

日吉中は遠い遠い昔のことだ。

「はるか、日吉中」

※本ブログは、「重松  清」風に書いたつもりですが・・・